事例からの気づき

障害や認知症により、
一人で物事をうまく決められない方と共に歩み、考え、
ご本人の意思を尊重した明るい未来を築いていく
「意思決定支援」。
いろいろな支援現場の実例から学ぶ、そのポイントとは?

こんな時、あなたなら、どうしますか? こんな時、あなたなら、どうしますか?

知的障害があり、グループホームに暮らすFさんは、
ある日突然、「犬を飼いたい」と訴えてきました。
Fさんの気持ちを考えた時、
あなただったら、どのように対応しますか?
このグループホームは、
ペットを飼うことを禁止しています。

「犬を飼いたい」
  • ①グループホームでは犬を飼えないことを説明し、説得する
  • ②グループホームにお願いして、犬を飼えるようにしてもらう
  • ③「犬を飼いたい」真意を探り出して、それに合った対応をする

Fさんの場合、③の対応をしたことで、解決できました

実は、Fさんは趣味で犬を飼いたかったわけではなく、
自分の居所に他人が勝手に入ってくるのが怖くて、
「犬を飼いたい」と訴えていたのです。
その後、居所の入り口にしっかりと扉をつけて施錠することで
Fさんは満足し、もう「犬を飼いたい」とは言わなくなったそうです。

この場合、もし①や②の対応をしていたら、どうなっていたでしょう。「犬を飼えない」ことを説得されても、Fさんが抱える根本的な不安はなくなりません。「犬を飼う」ことになっても、犬の世話をすることがFさんの本心ではないために、可愛がらず、「せっかく思いをかなえてあげたのに、世話もしないで、わがままな人」と思われてしまうかもしれません。また、同じような事例であっても、Fさん以外の人の場合は、①や②が解決策になることもあります。

これから取り上げる事例も、「〇〇さんの場合、こうしてうまくいきました」という一例です。
同じような課題でも、環境や対象者によって、違う解決策があるかもしれません。
“正解がないのが正解”というのが意思決定支援。そのことを心に留めて、このページを参考にして、よりご本人の気持ちに添った支援を考えていただけると幸いです。

障害や加齢による症状などの程度にかかわらず、誰もが心の中にはしっかりとした意思をもっています。
判断できないのではなく、思いを形にするのが苦手なのかも。うまく伝えられないだけなのかも。

時間がかかるからといって、第三者の思いや考えを押し付けない。「今は決められない」という選択肢も大切にする。
表層的なことだけで判断せずに、言葉にできないことがあるということも考える。

周りにいる人や地域が連携し、工夫すれば、きっとその人の中にある真の思いに行き着くことができるはずです。

わたしたち一人ひとりが、意思決定支援のポイントを身につけて、誰もが笑顔で暮らせる地域社会をみんなでつくっていきましょう。

1

ご本人が黙っているのは、分からないから?考えることができないから?

こんなことがありました

統合失調症があり、施設入所していたAさん。足を骨折したことから、リハビリも兼ねて、施設で行う体操教室に熱心に参加していました。
ある時、入所者を対象に、施設外に出かけるレクリエーションが催されることになり、新人の職員は骨折でしばらく外に出られなかったAさんに、外出の機会を作ってあげようとレクリエーションへの参加を促しました。しかし、レクリエーションの日程を確認しても、Aさんは黙り込んでしまうばかり。「きっと意味が分からないんだ」と考え、新人の職員はそれ以上Aさんに聞くことをやめてしまいました。

ご本人が黙っているのは、分からないから?考えることができないから?
どう考える

黙っているAさんは、何も考えていなかったのでしょうか?

Aさんは、自分が言いたいことを話しやすい環境だったのでしょうか?

もし、あなたがAさんと同じように、「どうせ分からないから」、「後でこんなはずじゃなかったと言われるのが嫌だから」といって、何もしてもらえないとしたら、どう思うでしょうか?

どう動く
黙っているから意思がないわけじゃない。環境設定で、選びやすくなることもある。

どれが正解か分からない時に、思っていることを最初から選ぶことは誰だって難しい。ましてや、障害のある人の場合、どうしたいか、うまく言葉にできないから黙っていることもあります。話しやすい場所を選んだり、言葉で伝えきれない場合は身振りや絵を使うなど、ご本人が意思を表しやすいように、工夫やサポートをしましょう。

意思決定する時の状況だけで判断しない。
その人の経験や歴史、日々の生活スタイル等からの選択肢も用意する。

「家に帰りたい」と訴えていても、実は「家にある仏壇を放っておけない」ということが真意だったということもあります。また、ご本人なりの選択肢があっても、遠慮して伝えないことだってあります。ご本人から出てくる情報や新しく得た経験、これまでの意思決定の仕方なども踏まえ、発想を豊かに選択肢を用意しましょう。

「こんなはずじゃなかった」と思われることを怖れて何もしないで良い?

「それって失敗しちゃうよね?」と思える選択だとしても、ご本人にとっては大切な経験になり、次の意思決定の機会に生かされることもあります。支援に関わる皆さんで話し合い、取り返しのつかないことにならないと考えられるのであれば、ご本人のチャレンジを支援するというのも選択のひとつと考えましょう。

その人の好きなこと、嫌いなことを知らないと意思決定支援は始まらない。

元々ある好き嫌いの中に、答えが潜んでいることもままあります。日々のコミュニケーションの中から、まずそこを理解することがスタートラインと考えましょう。

Aさんの場合、その後は…

別の職員が、改めてAさんに「レクリエーションのことをどう思っているのか」を、開かれた形で尋ね、思っていることを順序立てて確認。身振りや表情も気をつけて見ていくと、「体操教室を1回休むことで、また歩けなくなるのではないか恐い」と思っていたことが分かってきました。そこで、レクリエーションに出ることと、レクリエーションには出ずに体操教室に参加することについて、それぞれのメリットとデメリットを並べて提示したり、大事な点を紙に書き出したりしながら繰り返し説明していくと、Aさんは、体操教室を1回休んでも、歩けなくなるような日常生活の変化がないことを理解して、レクリエーションに参加しました。

意思決定支援にあたってのポイント①

意思と選好についての情報収集と分析(アセスメント)

具体的な方法について書かれている「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」をご紹介します。

意思決定支援の対象者 知的障害、精神障害、発達障害のある人など、障害福祉サービスを必要とする人
意思決定支援の担い手 事業者、家族、成年後見人等
必要に応じて、教育関係者、医療関係者、福祉事務所、市区町村の保健所などの行政関係機関、障害者就業・生活支援センターなどの就労関係機関、ご本人の知人などの関係者、関係機関など障害者に関わる人々
対象となる主な場面
  • ①食事、衣服の選択、外出、排せつ、整容、入浴などの基本的生活習慣に関する場面
  • ②施設などで日常提供されるプログラムへの参加を決める場面
  • ③自宅からグループホームや入所施設、ひとり暮らしなどに住まいの場を移す場面
  • ④どのような福祉サービスを選ぶか決める場面 等
情報収集とアセスメントの方法

必要な情報の説明は、ご本人が理解できるように工夫して行う。

工夫例


  • ・意思を表出しやすい日時や場所の設定する
  • ・絵カードの活用等、本人とのコミュニケーション手段を工夫する 等

ご本人の意思や選好、判断や自己理解する力、心理的状況、これまでの生活史など、
ご本人の情報や人的・物的環境などを適切にアセスメントする。

そのために…


  • ・ご本人から直接話を聞く
  • ・日常生活の様子を観察する
  • ・関係者から情報を収集する(日記や記録等も含む)
  • ・意思決定の参考となる体験を提供して本人の意思を確認する 等

ご本人の自己決定や意思確認が困難な場合は、ご本人をよく知る関係者が集まって
様々な情報を把握し、根拠を明確にしながらご本人の意思や選好を推定する。

情報例


  • ・ご本人の日常生活の場面や事業者のサービス提供場面における表情や感情
  • ・行動に関する記録などの情報
  • ・これまでの生活史、人間関係
情報収集ツールの例

ご本人の意思形成をサポートするツール

好き嫌いや価値観を把握するための写真や
絵等が描かれたカード

もし時間があったら、どちらを優先する?

ご本人の意思形成をサポートするツール

大切にしているのは、どんな生活?

ご本人の意思形成をサポートするツール
矢印 矢印

ご本人の“好き嫌い”確認シート

ご本人と円滑なコミュニケーションをとるためのツール

ご本人のことを家族と共に記録する情報ノート

関係者によるご本人の記録

参照:東京生活支援ノート つなぐ(社会福祉法人 東京都知的障害者育成会)
参照:令和2年度 サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者指導者養成研修」公開資料(引用:名川勝・延原稚枝, 2020)

詳しくは、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」をご覧ください。

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2

ご本人の言っていることは、本当の思い?伝えたいことは他にない?

こんなことがありました

認知症があり、要介護1のBさん。日曜大工が趣味で、自転車に乗ってよく近所のホームセンターに買い物に行っていました。
しかし、事故や途中で道に迷うことを心配した家族は、ケアマネジャーに鍵を取り上げて自転車を処分したいと相談。「必要なものは買ってきてあげるから、もうやめて」と、Bさんに詰め寄ると、「もういい、分かった」と言い残して、Bさんは部屋を出て行ってしまいました。
家族はBさんが納得してくれたと喜んでいましたが、ケアマネジャーには、Bさんがとても元気がないように見えました。

ご本人の言っていることは、本当の思い?伝えたいことは他にない?
どう考える

Bさんが言葉にしたことは、Bさんの思いの全てなのでしょうか?

どうしてBさんは、元気がなくなってしまったのでしょうか?

難しいことを決められる時って、どういう時でしょうか?一般論で正しいと思えることだけが、正解でしょうか?

どう動く
言っていることが、その人の思いの全てではない。

「こう言わないと迷惑かけちゃうから」、「今決めないといけない雰囲気だから」といった理由でその場限りのことを言ってしまったり、本当に伝えたいことは言っていることの奥に潜んでいるということもあります。ご本人の言葉の向こう側にあることを理解しないと、不当に誘導することにもつながりかねません。ご本人が受ける歴史的・社会的影響や、ご本人を取り巻く環境・背景なども考えて、「言葉の奥にある本当の気持ちをつかめたらいいね」という姿勢で常に向き合い、ご本人の思いがどこにもない決定を強制しないように気をつけましょう。

意思決定する時の状況だけで判断しない。
その人の経験や歴史、日々の生活スタイル等からの選択肢も用意する。

物事を決める時、特に大事なことを決める時には、これまでのご本人の経験や興味・関心を踏まえた選択肢を提示できると選びやすい、決めやすいということがあります。ご本人から出てくる情報や新しく得た経験、これまでの意思決定の仕方なども踏まえ、発想を豊かに選択肢を用意しましょう。

自分で選んだことが実現されると、それは力になる。

壊れた椅子に大切な思い出があることが分かり、ご本人がよく見えるところに移したことによって、椅子を家の前に放置して起きていた近隣とのトラブルを解決。ご本人も喜んで、その後、積極的に人と接するようになったという話があります。自分の真意を理解してもらえて、そこで決めたことが実現されると、自分の力を信じられるようになるものです。たとえ、ご本人の意思が合理的ではないと思えても、その意思の実現を支援することを大切に考えましょう。

Bさんの場合、その後は…

Bさんが言っていることは真意じゃないのでは?と考えたケアマネジャーは、改めていろいろな角度からBさんに聞いたところ、「ホームセンターでは自分の目で選びたい」、「買い物の帰りに一人で喫茶店に寄ることも楽しみ」、「でも、家族に心配や迷惑はかけたくない」ということが分かってきました。そこでケアマネジャーは、ホームセンターまでは家族がクルマで送って一度降ろし、時間を決めて、Bさんが買い物帰りに寄る喫茶店に迎えに行ってはどうかということを提案。家族もそれが負担ではないことをBさんに説明したところ、自分の気持ちに添った提案をしてもらえたBさんは元気を取り戻し、自転車に乗ることを控え、今まで以上に日曜大工と喫茶店のコーヒーを楽しんでいます。

Bさんの場合

意思決定支援にあたってのポイント②

意思決定支援のプロセス

具体的な方法について書かれている「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」をご紹介します。

意思決定支援の対象者 認知症の人(認知機能の低下が疑われ、意思決定がうまくできない人を含む)
意思決定支援の担い手 認知症の人を支える周囲の人
ケアを提供する専門職種や行政職員、家族、成年後見人等、地域近隣において
見守り活動を行う人、ご本人と接しご本人をよく知る人など
対象となる主な場面
  • ①食事、衣服の選択、外出、排せつ、整容、入浴などの基本的生活習慣に関する場面
  • ②施設等で日常提供されるプログラムへの参加を決める場面
  • ③自宅からグループホームや入所施設、ひとり暮らしなどに住まいの場を移す場面
  • ④ケアサービスの選択や、財産を処分する場面 等
意思決定支援の具体的なプロセス
  • 人的・物的環境の整備 : 支援者の態度、ご本人との信頼関係や関係性、
    意思決定の場所・時間などへの配慮等
  • 意思形成の支援 : 適切な情報、認識、環境の下で意思が形成されることへの支援
  • 意思表明の支援 : 形成された意思を適切に表明・表出することへの支援
  • 意思実現の支援 : ご本人の意思を生活に反映することへの支援

各プロセスで困難や疑問が生じた場合は、支援チームでの会議も併用・活用する。
→チームによるアプローチについて、詳しくはこちら

ご本人の意思は揺れることもしばしばあるため、意思決定の結果だけではなく、
そのプロセスを意識的に記録しておくことが重要。

いつ記録を取る?


意思決定が行われる時に加え、日常生活におけるご本人の意思決定に着目した情報も収集し記録しておく。
その際、些細な変化を見逃さないように注意。

どのような記録を取る?


意思決定の結果に加え、日々のご本人の生活上の意向や選好(好き嫌い、優先順位等)、価値観が表れるようなご本人の言動を記録しておく。
その際、事実と評価を書き分けておくと、振り返りの際に活用しやすい。

意思決定支援のプロセスにおけるチェックポイント

※これらの支援に順番はなく、必要な時に行きつ戻りつ、その都度チェックする。

人的・物的環境の整備
  • ご本人の意思を尊重し、安心できるような態度で接しているか。
  • ご本人のこれまでの生活史を家族関係も含めて理解しているか。
  • 丁寧にご本人の意思を、その都度確認しているか。
  • ご本人との信頼関係に配慮しているか。
  • ご本人は、立ち会う人との関係性から、自らの意思を十分に表明できているか。
  • ご本人は、初めての場所や慣れない場所で、緊張・混乱していないか。
  • ご本人を大勢で囲んでいないか。
  • 集中できる時を選んだり、疲れている時を避けているか。
  • 支援者は、支援のプロセスを記録し、振り返っているか。
意思形成の支援
  • ご本人が意思を形成するのに必要な情報が説明されているか。
  • ご本人が理解できるよう、分かりやすい言葉や文字にして、ゆっくりと説明されているか。
  • ご本人が理解している事実に誤りがないか。
  • ご本人が何を望むかを、オープンな形で尋ねているか。
  • 説明した内容を忘れてしまうこともあるので、都度、丁寧に説明しているか。
  • 可能な限り複数の選択肢を示し、比較のポイントや重要なポイントを分かりやすく示しているか。
  • 言葉だけではなく、文字にして確認できるようにしたり、図や表を使って説明しているか。
  • 理解している反応でも、実際は理解できていない場合があるので、
    本人の様子を見ながら確認しているか。
意思表明の支援
  • ご本人と時間をかけてコミュニケーションを取っているか。決断を迫るあまり、焦らせていないか。
  • 時間の経過やご本人が置かれた状況等によって意思は変わることもある。
    最初に示された意思にこだわらず、その意思を確認しているか。
  • 重要な意思決定の際には、表明された意思を、時間をおいて確認しているか。
    複数の意思決定支援者で確認しているか。
  • ご本人の表明した意思が、ご本人の生活歴や価値観等から見て整合性がとれない場合や、
    表明した意思に迷いがあると考えられる場合等は、ご本人の意思を形成するプロセスを振り返り、
    改めて、ご本人の意思を確認しているか。
意思実現の支援
  • 適切に形成され、表明されたご本人の意思を、ご本人の能力を最大限活用した上で、
    日常生活・社会生活に反映させているか。
    (支援チームが多職種で協働し、利用可能な社会資源等を用いて、反映させているか)
  • ご本人の意思が合理的でない時でも、その意思の実現を支援すべきことを理解しているか。
    (同時に、ご本人の意思を実現することが、他者を害する場合やご本人にとって
    見過ごすことができない重大な影響がある場合は、その限りでないことを理解しているか)
  • ご本人が実際の経験をする(例えば、ショートステイ体験利用)と、意思が変わることもあるので、
    ご本人にとって無理のない経験を提案することも有効な場合があることを理解しているか。

意思決定支援のプロセスの記録、確認、振り返り

参照:認知症の人の日常生活・社会生活におけるの意思決定支援ガイドライン 読み方と活かし方

詳しくは、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」[1.1MB]をご覧ください。

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3

全てを伝える?伝えない?それを一人で決めてしまっていい?

こんなことがありました

84歳のCさんは、子供の頃から低肺機能状態で軽度の心不全も合併。70代で脳梗塞、80代になって変形性膝関節症で介護が必要になり全人工関節置換術を経験。手術後に誤嚥性肺炎も発症し、食が細って声をかけても返事をしないことが多くなってきました。担当医は「今後肺炎を繰り返したり、脳梗塞や心不全の可能性もある」と判断しているのですが、Cさんの家族は、「本人を不安にさせたくない」と言い、伝えられないままになっていました。担当医はCさんに伝えるべきか、伝えないでいくべきか、日々悩んでいるのですが…

ご本人の言っていることは、本当の思い?伝えたいことは他にない?
どう考える

Cさんの状態や環境が変わっているのに、大切なことや難しい問題に対して、いつも同じ決定で良いのでしょうか?

あなたがCさんの立場だったら、命に関わる問題を、「あなたが不安になるから知らせなかった」と言われて納得できるでしょうか?

ご本人の決定を確認しづらい時、あなたが家族や支援する立場だったら、誰か一人の推測に任せてしまって安心できるでしょうか。また、あなたがご本人だったら、自分のことを理解していない人に、「この人はきっとこうだから」と、一方的な推測で決められて嬉しいでしょうか?

どう動く
重要なことは何度も確かめる必要がある。

大切なことだからこそ、時期や体調、心の状態によって、考えが変わってしまうことがあります。聞く相手によっても、ご本人の決定が変わってしまうことがあります。重要なことは、その都度、繰り返しご本人に確かめたり、ご本人をよく知る人などから必要な情報を集めたりしましょう。

「ご本人が不安になっちゃうから、伝えないで」で、良い?
情報を伝える伝えないということも含めて、みんなで悩むことが大切。
その上でご本人に相談する。

情報を知りたい、知りたくないは、ご本人の生き方にも関わってきます。それを伝えることによって、なんらかの意思決定が必要となるのであれば、ご本人に確認をした上で伝えることが必要です。その際、ご本人にいろいろ説明する前に、どんな選択肢を用意できるか、ご本人の気持ちをどう読み解くか、その選択肢を選んだ時にご本人にどんな影響を与えるかなどを支援チームで点検し合う、事前準備のためのミーティングを持ちましょう。

重要なことが分からないとき、みんなで決める必要がある。

支援する側の人の多くは、失敗を怖れてご本人に大切な機会(経験)を失わせてしまわないか、逆に、失敗させてしまったら自分の責任にならないかという葛藤と、日々戦っているのではないかと思います。そんな葛藤こそ、支援チームで共有し、ご本人の過去の言葉、記録、今までの状況や表現などから、疑問や気づきを話し合うことで、解決の糸口が見えてくるはずです。チームで協力し合って、意思決定を支援していきましょう。

Cさんの場合、その後は…

以前Cさんを見たことのある別の医師から「支援チームで考えましょう」と提案があり、今の担当医と看護師、ケアマネジャー、以前担当した医師やソーシャルワーカー等と家族が集まりミーティングを開催。各々の立場でCさんに関する情報を出し合い、話し合ったところ、「気が小さいけど意地っ張りなところもある」、「まだ切実ではないと思っている」、「自分のこと以上に家族のことを心配している」などが分かってきました。その情報を元に、伝えるメリットやデメリットについてチームで検討を重ね、ゆっくり時間をかけてCさんに確認した上で、今の状態を伝えることにしました。Cさんは現実を知って、ショックを受けた様子も見られましたが、その後、今後の治療や自分にもしものことがあった場合について、家族や支援チームといっしょに決め、今は安心して療養しています。

Bさんの場合

意思決定支援にあたってのポイント③

チームによるアプローチ

「人生会議(ACP)」の一例を参考に、具体的な方法についてご紹介します。

関連するガイドライン

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン

※「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」は、既存の制度やサービスの利用など、医療現場において医療機関や医療従事者が対応を行う際の対応方法を示したものです。ガイドラインのP.25からは、ご本人が医療における意思決定が困難な場合の、成年後見人等に期待される具体的役割が掲載されています。

意思決定支援の対象者 医療に係る意思決定が難しい人
意思決定支援の担い手 担当の医師と看護師及びそれ以外の医療・介護従事者
ソーシャルワーカーなど社会的な側面に配慮する人、ご本人の心身の状態や社会的背景に
応じてケアに関わる関係者(ケアマネジャー、介護福祉士)なども想定
対象となる主な場面
  • ①病状の進行や身体機能の低下が見られる場面
  • ②治療の変更が求められる場面
チームによるアプローチの方法

ご本人をもっともよく知っている医療・介護従事者が話し合いを始めることが望ましい。

▶ 病状や今後の経過の話が必須であり、それが良いきっかけとなるため。

ご本人や家族、ご本人の意思を理解している人とは、礼儀正しく丁寧に話をする。

  • ・ご本人・家族等の不安を考慮して、コミュニケーションはやさしく分かりやすい言葉で。
  • ・ご本人の感情(表情・視線・しぐさ)に気づいたら、感情への対応を優先する。
  • ・最善を期待して、最悪に備える。ともに希望を持ち、ともに心配する。という姿勢で。

事前にできる限りの範囲で、ご本人の気持ちや心構えを確認する。

  • ・病状や今後の医療・ケアについて理解しているか。
  • ・「病状が進んだ時」について考えたことがあるか、考えたことがなくても考えることに抵抗はないか。
  • ・療養や生活での不安や疑問、希望、大切にしていること、してほしくないこと、治療の選好 等
  • ▶ご本人の気持ちの柔軟性をあらかじめ確認しておくことで、ご本人の意思の推定を試みる関係者やチームの苦悩も軽減する。

ご本人の意思を理解して共有している人とともに
医療・ケアチームで繰り返し話し合い、意思決定を共有する。

  • ・記録や録音を残し、共有する。

家族も支援チームの一員と考え、協力し合う。

支援チームによる話し合いのチェックポイント
  • ご本人の意思決定能力の判定や、支援方法に困難や疑問を感じ、また、ご本人の意思を実現した場合に、他者を害する恐れがあったり、本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合には、チームで情報を共有し、共同して考えているか。
  • 意思決定支援の話し合いでは、参考となる情報や記録が十分に収集されているか。ご本人の意思決定能力が踏まえられているか。参加者の構成は適切かなど、意思決定支援のプロセスを確認しているか。
  • 意思決定支援の話し合いへのご本人の参加を検討しているか。
  • 意思決定支援の話し合いの開催は、意思決定支援チームの誰からも提案できるようにし、話し合いでは、情報を共有した上で、多職種のそれぞれの見方を尊重し、根拠を明確にしながら運営しているか。
  • 話し合った内容は、その都度文書として残し共有されているか。
  • 意思決定プロセスを踏まえた支援を提供するとともに、その過程や結果をモニタリング・記録し、評価を適切に行っているか。

参照:認知症の人の日常生活・社会生活におけるの意思決定支援ガイドライン 読み方と活かし方

ご本人と支援チームによる
話し合いの記録の例(ホワイトボード)

※イメージです

話し合いの記録の例(ホワイトボード)

詳しくは、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」[1.1MB](解説篇)
「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」[2.2MB]をご覧ください。

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ご本人に代わって決めてしまっていい?その前にできることは無い?

こんなことがありました

てんかんがあり、要介護1で成年後見制度を利用しながら一人暮らしをしていたDさん。
通っていたデイサービスでは「動けなくなったら、飼っているインコといっしょにここに来るかな」などと周りの人に言っていました。
ある時、脳梗塞を起こし、入院。重度の麻痺が残り、歩くことができなくなったばかりか、保佐人は主治医から「言語障害や認知症の可能性もある」と告げられました。その後、容態は少しずつ回復。保佐人は退院に向けて、「退院後の暮らし方」についてDさんに確認しようとしましたが、Dさんは全く反応してくれません。退院の期限は近づいてきています。

ご本人の言っていることは、本当の思い?伝えたいことは他にない?
どう考える

ご本人に尋ねても、返事ができない状態にある時、あなただったらどうするでしょうか?

Dさんは、「インコとずっといっしょにいたい」と思っていたようですが、
あなたがDさんの今後の暮らし方について意見を求められたらどうするでしょうか?

Dさんに代わって保佐人が退院後の暮らし方を決めた場合、この後もずっと全てを保佐人が決めていってよいでしょうか?
あなたがDさんだったら、どうしてほしいでしょうか?

どう動く
ご本人に代わって決めるのは、最後の手段。推定意思による決定が原則。

ご本人が言葉で伝えることが難しい場合でも、表情や身振り、感情などから、意思を読み解く工夫をまずしましょう。さらに、ご本人なら、どのような意思決定をするかを、それまでの言動や行動の記録、生活史、人間関係など様々な情報に基づいて、成年後見人等を含めた支援チームで推定を試みましょう。その際、成年後見人等は、権利擁護者として、十分な根拠に基づいて意思の推定がされているか、関係者による勘違いや一方的な推定がされていないかどうかを注視することが重要です。

ご本人の意思に基づいた決定がその人自身や他者を傷つける時には、異なる決定がされることがある。

チームで推定した意思が、他の選択肢と比べて明らかにご本人にとって不利益な選択肢となる場合や、一度実現してしまうと回復困難なほど重大な影響をご本人に及ぼす場合があります。また、第三者への重大な権利侵害を生じさせる可能性もあります。その時は、「ご本人にとって見過ごすことのできない重大な影響」を及ぼすかどうかをチームで慎重に検討し、「ご本人にとっての最善の利益」に基づく決定もあり得ると考えましょう。

ひとつの課題に対して代行決定が
必要となったとしても、次の意思決定の際には、「決める力がある前提」に戻る。

代行決定は、これ以上先延ばしできない、判断が迫られている場面での、その場限りの支援です。また、違う状況や場面では、ご本人が意思決定できないと評価されるとは限りません。一度、意思決定支援を経験したことで、ご本人の決定する力が甦ったり、支援する側にも新しい力が蓄積できたりします。新しい課題が生じた時には、常に「ご本人には自分で決める力がある」という前提に立ち返って考えましょう。

Dさんの場合、その後は…

保佐人は、療養型病院への入院、特別養護老人ホームへの入所、在宅での生活の選択肢を用意して、絵や写真、文字ボードを使ってDさんの意思表明を何度も試みましたが反応はなく、医師や他の支援者に相談しても、別の支援手段は見当たりませんでした。保佐人は、Dさんの情報や様々な記録、ケアプラン、インコの写真等を用意して、支援チームで話し合いました。Dさんが「インコといっしょにここに来るかな」と言っていたことなどから、通い慣れて、インコも預かってくれていたデイサービスに併設の特別養護老人ホームへの入所契約をDさんに代わってすることにしました。退院後、無事に入所したDさんは、言葉での表現はうまくできないものの、指をさして「インコのところに行きたい」といった意思を表現できるようになりました。

Bさんの場合

意思決定支援にあたってのポイント④

意思の推定と代行決定

具体的な方法について書かれている「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」をご紹介します。

意思決定支援の対象者 被補助人、被保佐人、成年被後見人など、成年後見制度を利用する人
意思決定支援の担い手 補助人、保佐人、成年後見人、中核機関、自治体の職員 等
必要に応じて、医療関係者、福祉事務所、ケアマネジャー、ヘルパーなど、
ご本人の日々の暮らしを支援している人
対象となる主な場面 ご本人にとって重大な影響を与えるような法律行為や、それに付随した事実行為の場面
  • ・施設入所契約など、本人の居所に関する重要な決定をする場面
  • ・自宅や高額な資産の売却など、法的に重要な決定をする場面
  • ・特定の親族に対する贈与・経済的援助など、直接的には本人のためとは言い難い支出をする場面 等
意思推定と代行決定の方法

意思決定支援を尽くしても意思の決定や確認が困難な場合、成年後見人等を含めた
支援チームで、ご本人であればどのような意思決定をしていたのかを推定する。

  • ・日常生活や福祉サービスの提供時の表情や感情、行動に関する記録やこれまでの生活史、人間関係などの情報を集め、信頼できる情報を適切に選別する。
  • ・事実関係を整理し、明確かつ合理的な根拠に基づいて、ご本人の意思や選好、価値観を推定する。

ミーティングの結果、ご本人の意思が推定できる場合には、
「ご本人にとって見過ごすことのできない重大な影響」に該当しない限り、
ご本人の信条・価値観・選好に基づいて支援を展開する。

意思の推定が困難な場合や、ご本人の表明意思・推定意思を実現すると
「ご本人に見過ごすことができない重大な影響」が生ずる場合などには、
ご本人にとっての最善の利益に基づき、成年後見人等による代行決定を行う。

  • ・ご本人の意思よりも他者の判断が優越し得る場合がある(ご本人の意思や推定意思とは異なる他者決定があり得る)ということに留意が必要。
代行決定に移る際のチェックポイント

第三者から見れば、必ずしも合理的でない意思決定であったとしても、「ご本人にとって見過ごすことのできない重大な影響」 (明らかな不利益、取り返しのつかない結果、発生の確実性)が発生する可能性が高いとまでは評価できない場合

▶︎ ご本人の意思(推定意思も含む)に基づいて支援を行うことが期待される


意思決定支援の結果、ご本人が意思を示した場合や、ご本人の意思が推定できた場合でも、
その意思をそのまま実現させてしまうと、「ご本人にとって見過ごすことができない重大な影響」が生じるような場合

▶︎ 法的保護の観点から、同意しない、又は、「最善の利益」に基づいてご本人の意思とは異なる形での代行決定を行うことが許される

「ご本人にとっての最善の利益」を検討するための前提条件
  • 意思決定支援が尽くされているか否かを吟味したか。
  • その結果、ご本人の意思決定や意思確認がどうしても困難であり、意思推定すら困難といえるか。
  • これ以上決定を先延ばしできない場面と評価できるか。(意思決定をしないことも、また決定)
  • 身分関係の変動、身体への侵襲を伴う医療に関する意思決定など、成年後見人等が代行決定することができない意思決定には当たらないことの確認をしたか。
  • 他の法律による介入が必要な場合、所管する関係機関に対して会議への同席を求めたか。
  • 意思決定に関与するご本人の支援者らから、ご本人の選好や価値観、その他ご本人にとって重要な情報が十分に得られているか。
  • ご本人が最善の利益の検討過程に参加・関与できる機会が考慮されているか。
「ご本人にとっての最善の利益」を検討する際の協議事項
  • ご本人の立場に立って考えられるメリット、デメリットを可能な限り挙げた上で、比較検討する。
    (バランスシートなどの表に記録することが望ましい)
  • 相反する選択肢の両立可能性があるかどうかを検討する。
    二者択一の選択が求められる場合においても、一見相反する選択肢を両立させることができないか考える。
  • ご本人にとっての最善の利益を実現するにあたり、
    ご本人の自由の制約が可能な限り最小化できるような選択肢はどれかを検討する。
  • ※無意識のうちに支援のしやすさを優先していないか、最初から結論を決めており、
    代行決定を後付けの根拠としようとしていないかといった点に注意する。

異なる時点・場面における意思の推定と代行決定について

場面が変われば、ご本人の意思決定能力は変化し得ることから、再び何らかの意思決定が課題となる場合には、改めて「本人には自分で決める力がある」という前提に立ち戻って支援が展開される必要がある。

参照:意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン

詳しくは、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」[3.7MB]をご覧ください。

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意思決定支援は、一度決定したことでも、 また次の段階に移行する際には、最初に戻って考え、 関係するみんなで話し合っていくことが基本です。 以前行った決定に縛られることなく、 常にご本人の気持ちになって考え、支援していきましょう。 意思決定支援は、一度決定したことでも、 また次の段階に移行する際には、最初に戻って考え、 関係するみんなで話し合っていくことが基本です。 以前行った決定に縛られることなく、 常にご本人の気持ちになって考え、支援していきましょう。
後見人として意思決定支援を行う場面とは?図解

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ご本人らしい生き方にたどり着く意思決定支援のために[11.1MB]

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